“変革をリードする人財”育成のため新たな組織を設立

1853年創業の株式会社IHIは、170年以上の長い歴史を持つ総合重工業グループです。2023年4月に「グループ人財戦略2023」を発表。これに基づき同社は、「変革への挑戦」を評価する制度改革と風土醸成を掲げ、“「良い+強い」会社”と“個人の「成長+幸せ」”の両立を目指し、さまざまな人事施策を進めています。

その中で、2023年4月に社長直轄で設立されたのが「IHIアカデミー」です。IHIアカデミーは「挑む、越える、解き放つ」をスローガンに定め、同社の変革をリードし、事業の成長に貢献する“グローバルな経営・専門人財”の輩出を使命に据えています。ロゴには、組織変革やリーダーシップ論に基づき、リスクを恐れず初めてのことに挑戦するファーストペンギンやセカンドペンギンからペンギンをモチーフに採用しました。

IHIアカデミーのロゴ

「これからの経営者は、トランスフォーメーション(変革)を起こす必要があるので、通常の業務やマネジメントを通じたキャリア形成だけでは不十分でしょう。従来の経験に加えて、多様な体験を積み、経営者としての能力を身につけていくことが欠かせません。そこで、人事部とは別の組織にして、メンバーも限定する形で、『IHIアカデミー』という組織が立ち上がりました」とIHIアカデミーの関健治氏は語ります。

株式会社IHI
IHIアカデミー
アカデミー長
関健治氏

アカデミー受講者は公募で、自発性、積極性を求める

同アカデミーは、「経営人財育成」と「高度専門人財育成」の2本柱で、受講者は基本的に公募です。公募を多く取り入れたのは、経営に携わりたいという積極的な意志を持つ従業員が、自ら準備、努力して経営者になっていくべきだと考えたからです。

経営人財育成は、完全公募の課長代理から課長相当向けの「GP(グロースプログラム)」、限定公募で課長相当以上向けの「CLP(チェンジ・リーダー・プログラム)」、社長指名の「EP(エクゼクティブ・プログラム)」の3つのコースがあります。そして、越境要素を取り入れた社内外のさまざまなプログラムや、アクションラーニング中心のプログラムを行い、それらが終了した後も実践のフォローをします。

高度専門人財育成は、「品質」「設計」「生産」「知財」に関するプロフェッショナル研修です。「プログラムの目的は、品質や設計、生産の各分野で、幹部として求められる専門知識の習得と必要な戦略策定力を身に着けることです。自社の事業をよく知るIHIのプロフェッショナル部門の社員が講師となって、独自のプログラムを作り、アカデミーと協業して研修を行いました」とIHIアカデミーの田中裕子氏は説明します。

株式会社IHI
IHIアカデミー
主査
田中裕子氏

認知度向上のため、ブランディング施策を展開

同アカデミーは高い理想を掲げた新しい組織のため、従業員に「IHIアカデミーに参画して、経営人財、高度な専門人財を目指そう」と感じてもらうには、ブランディングが重要になると考えたといいます。そこでロゴやキービジュアルの制作を、当社に依頼して作成し、さまざまな場面で使うことにしました。

「挑む、越える、解き放つ」を謳ったキービジュアル

ロゴマークは、先述の通りペンギンをモチーフにして作成、これを活用したショートムービーやIHIアカデミー長メッセージなど、社内イントラに掲載するとともに、メタバース上で行った開校セレモニーといったイベントでも利用しました。

ファーストペンギンやセカンドペンギンが氷山から海に飛び込む映像を使った、IHIアカデミー紹介ムービーや、ロゴが入ったファイルケース、グッズなども制作しています。中でも、モチーフであるペンギンで始まり、ペンギンで終わる紹介ムービーは、同アカデミーの活動を社内に広く知らせる上で大きな役割を果たしました。

「これまで、ロゴや紹介ムービーまで作るケースは少なかったのですが、キービジュアルは視覚的にもとてもインパクトがあり、これに共感して応募してくれた従業員が複数いました。また、従来は選抜研修を受講したことを明かさない風潮もありましたが、社内でアカデミーは公の存在になっており、参加したことを隠さないように変わり、取り組みの広がりを実感しています」とIHIアカデミーの田中結氏は話します。

株式会社IHI
IHIアカデミー
田中結氏

ブランディング最初のステップは“理念の言語化”

ロゴやキービジュアル、紹介ムービーなどの制作依頼を受けた当社にとって、IHIがアカデミーの設立背景や企業としての課題、その解決のための方向性を明確にしていたことで、具体的な提案がしやすい面がありました。

「新しい組織を立ち上げる際、私たちはいつも最初のステップとして、理念やコンセプトを端的な言葉にしたり、ロゴなどシンボル化することが大切だと申し上げています。今回はIHIアカデミーとしての考えが明確で、早い段階から双方の思いが一致しました。その中で、アカデミーの使命やスローガンは物語性を感じられるものとなり、従業員の皆さんもイメージしやすい提案ができました」と揚羽の佐藤考良は力を込めます。

株式会社揚羽
ブランドコンサルティング部
シニアコンサルタント/シニアプロデューサー
佐藤考良

「ファーストペンギンのアイデアも最初から提示されていたので、一緒にそれを磨き上げることができました。IHIの皆さんが積極的にアイデアを出してくれたからこそ、そこで議論し、素早く結論を出せたのだと思います。伴走支援する我々としては、とても有り難かったですね」と揚羽の竹下真由は振り返ります。

株式会社揚羽
ブランドマーケティング部
竹下真由

既にIHIアカデミーを受講した従業員からは「多様なメンバーと接する中で、他人の体験に共感することで、追体験できると感じた」「いつの間にか固定観念を持って仕事をするようになっていたが、それに囚われる必要はないと気づかされた」など、同アカデミーが目指す越境や変革に向かうリーダーシップの重要性を実感している声が寄せられています。

「フォローアッププログラムを実施した際、参加メンバーから『この場にいると学びが深まる』とか、『同じ志(変革)を持った仲間がたくさん集まっているアカデミーという場で研修すると、気が引き締まる』などの声を聞くこともできました。メンバー同士で刺激し合いながら、成長していく場が、徐々にかもしれませんが、確実に作り出されていると感じています」(田中裕子氏)。

2025年度に「変革人財」600名の輩出を目指す

IHIアカデミーでは2024年11月に、2023年度のCLP(チェンジ・リーダー・プログラム)受講者を対象にした振り返りのイベントを開催しました。その目的は、トレーニングで学んだことを顧みて、ともに受講した仲間と共有することで、モチベーションを高め合いながら、参加者自身の成長につなげることです。

当社は、この振り返りイベントの準備段階で、プログラムの振り返りムービーの作成や、グラフィックレコードで学びをビジュアル化して、イベント内でそれぞれが共有することを提案し、実際に実施に至りました。

「イベントで上映した振り返りムービーには、感情を揺さぶられて『心が熱くなった』『見ているだけでワクワクした』といった感想が寄せられました。また、グラフィックレコードは話した内容を視覚化しているため、『頭に入ってきやすい』『自身の原点確認に使えそう』などの声もありました。どちらも参加者に大変好評で、大きな手応えを感じています」(田中結氏)。

同社は、将来の幹部候補である「変革人財」について、2025年度には600名を輩出する計画です。そのために「受講者のポテンシャルの見極めと部門推薦者の受講促進」「キャリアデザイン管理」「海外ナショナルスタッフからの選抜」の3つに取り組んで行きます。

さらに、学びと職場実践の共有、ネットワーク形成のためのフォローアップセッションを行うことで、IHI全体の変革に向けたムーブメントにつなげていく考えです。「2年ほどの取り組みを通して、IHIアカデミーの存在も社内に浸透しつつありますが、グループ全体で見れば、まだ一部にとどまっています。認知度を上げ、受講希望者を増やすためにも、揚羽さんの協力も得ながら、社外に向けたPRも含めた広報活動を強化したいと考えています」と関氏は今後の抱負を語りました。